2004年 05月 01日
【詩】『試食Ⅰ・Ⅱ』
休日のスーパーで
買い物をしている主婦がいる
つきあわされて退屈そうにしている夫は
試食のソーセージを
ついつい食べてしまう
爪楊枝に一つまみ
禁断の味が
スーパーのあちらこちらで
発見される
マグロ漬けの切り身
ハンバーグのかけら
ニュージーランド産と偽って
実は宮崎産のキウイ
今までで一番美味しかったキウイは
本当は国産なのに
やっぱりニュージーランドじゃなきゃと
曲がった知識を与える
オーストラリア牛の切り身
ホタテフライのかけら
豚の角煮のかけら
黒糖パンのかけら
退屈を持て余す夫は
妻の目を盗んでは試食
つまむ つまむ つまむ
マリネのかけら
グレープのかけら
ちょっと油が古くなっている
中食コロッケのかけら
あっちもこっちも手当たり次第
爪楊枝に一つまみ
妻用事あると人妻に声かけ
手当たり次第行き当たりばったり
買い物をしている主婦は自分が連れてきた夫には目もくれず
今夜の晩ご飯どうしようか
試作中
両手に爪楊枝を持ちながら
ハンバーグを食べ
ソーセージを食べ
チキンナゲット
浅漬け
沢庵
フィッシュフライ
夫に負けじと試食 試食
ダイエットなんて言葉は
脳の片隅へと消えていった
夫がつまむ
手当たり次第
妻もつまむ
手当たり次第
誰かの夫がヒマそうにつまむ
誰かの妻は忙しそうにつまむ
互いに互いをすっかりわすれ
夫は退屈に我慢しきれず
妻はダイエットが我慢しきれず
スーパーの中では勝手に振る舞いやりたい放題
歩きたい放題つまみたい放題
それでも最後はレジで待ち合わせ
幸せそうな顔をして店を出る
試食したものは一つも買わず
何もなかったかのように
店を出る
目と耳と胃袋が満たされた二人は
食費が浮いた事だけを喜んでいた
東南アジアを旅行していた時に
同じ汽車に乗り合わせたミッシェルというアメリカ人に訊かれました
「ボクはこれから日本に行くんだけど
日本ではスーパーマーケットの売り物が食べられるって
本当なのかい」
「まさか」と笑ってふと考えると
「ああ 試食ってやつだね」と思い出す
「シショク」ミッシェルは不思議そうな顔をして繰り返した
「そう 自分が買おうとしているものが本当に美味しいのかどうか
ちょっとだけ食べてから決められるサービスさ」
「食べたら買わなければいけないのかい」
「いや 買う必要はないのさ だからいろいろ食べて
試している振りをすればいいのさ」
ミッシェルは驚きながらも
「それはすばらしい 日本で生き延びる知恵を授かったよ
やっぱりダイエーというスーパーがいいのかい」
ミッシェルはダイエーという名前をどこからか教えてもらっていた
「いや ダイエーに限った訳じゃないのさ 休日がねらい目だよ
それとダイエーは経営が傾いているから期待できないよ」
「そうか 日本に行く前に日本人と知り合えて良かった」
ミッシェルはとても嬉しそうだった
「さあ食べるぞ シショクで食費を節約するんだ」
「もう一つ質問していいかい」ミッシェルが訊ねてきた
「ああ 日本の事ならね」
「わかった 実はボクはどうしても日本の天皇に会いたいんだけど
キミから紹介してくれるかい」
「あはは 天皇にはさすがに会えないよ」
「それはどうしてだ」
「どうしてって ボクはこれからクアラルンプールへ向かうからね」
ミッシェルはそれを聞いてから天皇の話はしなくなった
「そうか シショクか シショク… メモしておこう」
相変わらず彼は試食に興奮しているようだった
買い物をしている主婦がいる
つきあわされて退屈そうにしている夫は
試食のソーセージを
ついつい食べてしまう
爪楊枝に一つまみ
禁断の味が
スーパーのあちらこちらで
発見される
マグロ漬けの切り身
ハンバーグのかけら
ニュージーランド産と偽って
実は宮崎産のキウイ
今までで一番美味しかったキウイは
本当は国産なのに
やっぱりニュージーランドじゃなきゃと
曲がった知識を与える
オーストラリア牛の切り身
ホタテフライのかけら
豚の角煮のかけら
黒糖パンのかけら
退屈を持て余す夫は
妻の目を盗んでは試食
つまむ つまむ つまむ
マリネのかけら
グレープのかけら
ちょっと油が古くなっている
中食コロッケのかけら
あっちもこっちも手当たり次第
爪楊枝に一つまみ
妻用事あると人妻に声かけ
手当たり次第行き当たりばったり
買い物をしている主婦は自分が連れてきた夫には目もくれず
今夜の晩ご飯どうしようか
試作中
両手に爪楊枝を持ちながら
ハンバーグを食べ
ソーセージを食べ
チキンナゲット
浅漬け
沢庵
フィッシュフライ
夫に負けじと試食 試食
ダイエットなんて言葉は
脳の片隅へと消えていった
夫がつまむ
手当たり次第
妻もつまむ
手当たり次第
誰かの夫がヒマそうにつまむ
誰かの妻は忙しそうにつまむ
互いに互いをすっかりわすれ
夫は退屈に我慢しきれず
妻はダイエットが我慢しきれず
スーパーの中では勝手に振る舞いやりたい放題
歩きたい放題つまみたい放題
それでも最後はレジで待ち合わせ
幸せそうな顔をして店を出る
試食したものは一つも買わず
何もなかったかのように
店を出る
目と耳と胃袋が満たされた二人は
食費が浮いた事だけを喜んでいた
東南アジアを旅行していた時に
同じ汽車に乗り合わせたミッシェルというアメリカ人に訊かれました
「ボクはこれから日本に行くんだけど
日本ではスーパーマーケットの売り物が食べられるって
本当なのかい」
「まさか」と笑ってふと考えると
「ああ 試食ってやつだね」と思い出す
「シショク」ミッシェルは不思議そうな顔をして繰り返した
「そう 自分が買おうとしているものが本当に美味しいのかどうか
ちょっとだけ食べてから決められるサービスさ」
「食べたら買わなければいけないのかい」
「いや 買う必要はないのさ だからいろいろ食べて
試している振りをすればいいのさ」
ミッシェルは驚きながらも
「それはすばらしい 日本で生き延びる知恵を授かったよ
やっぱりダイエーというスーパーがいいのかい」
ミッシェルはダイエーという名前をどこからか教えてもらっていた
「いや ダイエーに限った訳じゃないのさ 休日がねらい目だよ
それとダイエーは経営が傾いているから期待できないよ」
「そうか 日本に行く前に日本人と知り合えて良かった」
ミッシェルはとても嬉しそうだった
「さあ食べるぞ シショクで食費を節約するんだ」
「もう一つ質問していいかい」ミッシェルが訊ねてきた
「ああ 日本の事ならね」
「わかった 実はボクはどうしても日本の天皇に会いたいんだけど
キミから紹介してくれるかい」
「あはは 天皇にはさすがに会えないよ」
「それはどうしてだ」
「どうしてって ボクはこれからクアラルンプールへ向かうからね」
ミッシェルはそれを聞いてから天皇の話はしなくなった
「そうか シショクか シショク… メモしておこう」
相変わらず彼は試食に興奮しているようだった
#
by fibich
| 2004-05-01 18:29
| 詩