ブログトップ | ログイン

幻想と日常 ~La Fantazio kaj la Kvotidiano

【詩】『長尾台住宅』

この住宅地は
どこか変なんです
川っぷちにあって
どぶ臭いなんてことは問題じゃありません
臭いのならむしろ
どこからともなく漂う
昔の横須賀線の臭いの方が
ずっと気になります
日当たりの良い場所と
日当たりの悪い場所が
ハッキリしすぎています
特に以前は日当たりが良かった場所に住む人は
日当たりが悪くなったことよりも
日当たりを悪くさせた原因にばかり
固執して文句を言い続けます
そのため争いも絶えず
自治会でさえも仲裁に入りたがりません
この住宅地のはずれには
鉄道があります
しかし列車は通りません
列車の来ない鉄道は
いゝ様に利用されています
子供の遊び場になったり
晴れた日には
布団とパンツが
干してあったりします
日当たりの良い家の住民は
さらに日当たりの良いこの鉄道を利用します
日当たりの悪い家の住民がやってくると
石を投げて追い返します
だから争いも絶えず
誰も仲裁には入りません
日当たりの悪い家の前には
車が通れるほどの道路がありますが
いつでも誰かゞ車を停めていて
まともに通れることがありません
先日は日当たりの良い家に
急病人が出ましたが
救急車が立ち往生してしまい
急病人は死にました
日当たりの良い家の住人は
日当たりの悪い家の住人を責めましたが
車の持ち主が特定できず
誰のせいなのかわからぬまゝ
諍いを今日も続けています
公民館でお葬式が行われたときも
日当たりの良い家の住人たちは
こぞって日当たりの悪い家の住人を責め立てました
あきれ果てた日当たりの悪い家の住人たちは
怒って葬儀の途中で出て行ってしまいました
公民館まで霊柩車が入ってこられないので
日当たりの良い家の住人はみんなで
棺を霊柩車まで運ばなければいけませんでした
古い横須賀線の臭いが一段と立ちこめる
どんよりとした曇り空の日の事でした
日当たりの悪い家の住人は裏窓から
棺が通り過ぎるのを見ていましたが
誰一人として顔は出しませんでした
この住宅地は
どこか変なんです
日当たりの悪い場所がどんどんと増え
それまで日当たりの良かった家に住んでいた人が
だんだんと日当たりが悪くなり
日当たりの良い家が減り続けているのです
日当たりの悪い場所が増え続ければ
住宅地のバランスも変わり
なおのこと日当たりの良い家に住んでいる人に
風当たりが強くなります
こうして今日も川沿いの住宅地は
古い横須賀線の臭いに包まれながら
日当たりの良い場所と悪い場所との
諍いが続きます
小さな川沿いの
小さな住宅地
車であっという間に通過してしまう場所にも
人間の強い固執が
渦巻いていました
この住宅地は
どこか変なんです
by fibich | 2004-04-19 03:52 |

詩と写真の日記

by 遊羽(なめタン)
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31