ブログトップ | ログイン

幻想と日常 ~La Fantazio kaj la Kvotidiano

【地名考】鹿児島県いちき串木野市~すっ飛んだ名前を経て公募たった2票の名前に決定

 今回は合併前から新地名でちょっと騒がれ、結局なんだこの名前はという新地名で落ち着いた鹿児島県いちき串木野市の話。合併協議会名は「串木野・市来合併協議会」で鹿児島県串木野市と市来町の合併でできた町だ。新市名の名前だけ見ればいわゆる「燕三条」形のネーミングで、片っぽがどういうわけかひらがなである。この時点で地名通や言語学者から見ると「またか」と思われてしまう。

 串木野市はそれまで合併を協議していた川西薩(せんせいさつ)地区法定合併協議会(川内市、串木野市、樋脇町、入来町、東郷町、祁答院(けどういん)町、里村、上甑村、鹿島村。後の薩摩川内(さつませんだい)市)から平成15年度に離脱、その後すぐに住民要望の声を聞き市来町との合併を図ってみてはどうだという声が強かったので市来町に打診。

 一方の市来町も日置合併協議会(市来町、東市来町、伊集院町、日吉町、吹上町、金峰町。後の日置市)で他町との合併に向けて話を進めていたが離脱。両市町は平成15年12月18日に串木野・市来合併協議会を設立して本格的な合併協議に入る。(ここらへんまでは自分にとっては全然興味がない。端から見るとお互いに許嫁がいる者同士が手に手を取って… なんてイメージがなきにしもあらず。 

【地名考】鹿児島県いちき串木野市~すっ飛んだ名前を経て公募たった2票の名前に決定_a0004070_19185028.jpg
◆長崎鼻公園、見てみたいな
いちき串木野観光協会HPから引用

 
 新地名称については新市名称等検討小委員会で全応募名種類787点から第一次選考33点、さらにそこから5点に絞り平成16年8月26日の第10回合併協議会にて提案される。提案された候補は次の通り…

串木野市(くしきのし)
 現存地名なので名称変更による経済的影響がない。知名度もある。
くしきの市
 読み書きが易しく新鮮である。
西さつま市
 名前で位置がわかりやすい。薩摩という名前は知名度が高い。
望海市(のぞみし)
 両市町ともに海に面し、これからの未来に希望を持たせる意味がある。瑞祥地名
れいめい市
 新しい時代の幕開けを感じさせ、読み書きも易しい。瑞祥地名。それにしても「黎明」とはすっ飛んでいる。

 これに対して市来側が小委員会の選定に対し串木野の名前は2つもあるのに自分たちはないのは寂しいと言い出し、串木野の「木」を市来の「来」にしてしまえばどうだろうというあまりに安易で寂しい提案が出る。これに対して小委員会側から地名には歴史的な意味があることは看過できないと声が出て、串木野の名前の由来の説明に入る。

 串木野の串は今とは違いかつては海、港湾の意味を持っていた。串木野の名前がつけられた頃はこの海から木々が茂る野原が広がっていたであろうことからこの名前がついたのではないだろうかとのこと。確かに串の字がつく地名は海の近くが多い。串崎、小串、串本など西日本に行くとたいていは海の近くだ。

 平成16年9月24日の第11回合併協議会では継続審査の確認、同年10月14日に行われた第12回合併協議会で先に選出された5点中から無記名投票で決めることになり、次のような結果になる。

れいめい市11
串木野市6
くしきの市1
西さつま市0
望海市0

 この段階で個人的には「やっちまったな協議会」と言いたくなる(特に得票数を見て)。委員総数18名で過半数を獲得した「れいめい市」という名前が新市名称として正式に選定された。

 ところがこの「れいめい市」に待ったがかかる、というか単に「えーこんな名前ヤダよ」という声なのだが、あまりに名前がすっ飛びすぎているので地域の人たちも戸惑ったのであろう。合併は賛成だがその名前は勘弁してくれという声が高くなり平成16年11月19日の第15回合併協議会では再審議が要求された。「れいめい市」に反対意見が多かったのは主に串木野側で串木野の名前を残してくれという意見が多かった。一方の市来側は比較的「れいめい」という名前にはそれほど否定的でなかったらしい。

 15回協議会では「れいめい」も最終候補に入れつつも、元の名前を残す案も同時進行。すると市来側からも市来の名前も残したいという意見があり、そこで市来と串木野をそのままくっつけるまさに「燕三条パターン」案が出される。しかしこの案には地元の人には納得がいく理由がある。

 市来町はそれまでも議会では「いちき町議会」とひらがなを使っていてひらがな地名には慣れていた。そして串木野はもとから市なので「串木野市」という名前はもともとあり「いちき串木野市」にするのがいいだろうというアイデアが出る。こうして元の787候補リストと照合し、「いちき串木野」があったので選考委落ちしていたはずの名前に白羽の矢が当たったのだ。当初の票数はたったの2票。

 平成16年11月22日、先の第15回協議会から3日後に第16回合併協議会が開かれ、前回の「れいめい市」と「いちき串木野市」の2つから無記名投票による選出。

 委員総数18名中白票1

 いちき串木野 14
 れいめい    3

 で、新市名称は「れいめい」から「いちき串木野」へと変更となる。これでめでたしめでたし現在もまだいちき串木野というやたらと長ったらしくてひらがな交じりな地名が用いられている。当時の大合併でさんざん叩かれたひらがな地名が増えたのには「なにか新しいから」「見た目に優しいから」だの「親しみがある」などといった理由が多いのだが「以前からひらがなを議会で使ってたから」という何ともヘンテコな理由で決定になったのはおそらくここだけではないだろうか。。

 この経緯をよく見ると一番わからないのは旧市来町だ。最初は市来の名前にこだわっておきながら「れいめい」という名前が決まるとそれがいいと言いだし、それが串木野で叩かれて元の地名をという話になるとまた姿勢を変えてそれじゃあうちの名前も残してよと、あまりに節操がなさ過ぎな印象を受けてしまう。

 ここまででも面白い経緯をたどっているが、もっと面白いのは一般公募787点の中にあった地名候補。以下にツッコミといっしょに記す

イノキ市…「いちき」だの「イチキ」だの色々ある中どさくさ紛れとしか言いようのない名前。
エンジェル市
エンジェルシティー市
ハッピーエンジェル市…バカじゃないの。
凹凸市(おうとつし)…住所書くときにイライラしそう。そんなに串木野と市来の関係は凸凹なのかな。
エノキーノ市…意味不明。
がっぺい市…見ての通りだ。
キラキラ市…実は他の自治体の一般公募でも常連の名前
串木野市来さざなみの生まれる湊市…長すぎだよ。協議会委員や地名選考小委員会の委員は長い名前は避けるよう心がけている。これまた住所書くときイライラしそう。
さつまあげ市…実は一般公募では食べ物や名産の名前が寄せられる事が多いが採用されたのを見たことがない。
サワー吹上市…意味不明
助動市(じょどうし)…英語好きな人が多いのかな。
ダブル市…どこがダブルなのかわからない。
パパラッチャ伊藤市…意味不明。ふざけているとしか思えない。
東シナ海市…まさに太平洋市の再来、日中・日韓問題につながりかねない。
フレンドリー市…外国語はねぇ。出身地聞かれてもどこだかわかってもらえない。
ゆかいな市…そんなにいい場所なのかね。

 このところこのおもしろ候補は紹介していなかったのだが下調べの段階でちゃんとまとめてあるのでこれまで紹介した自治体にあったおもしろ候補も追って紹介したいと思っている■

by fibich | 2014-07-04 23:39 | 平成大合併新地名考

詩と写真の日記

by 遊羽(なめタン)
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31